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「数は二十七、八名。隊長らしき者はいない。モブだね」
「脱走兵たちは、副長って気がついているかな?」
「将官がいることはわかっているみたいだ。だけど、それがだれかは気がついていない。連中、将官の頸を持って敵に投降するつもりかもしれないね。どうする?」
頭上で生い茂る枝葉の間から、月光がわずかに射し込んでくる。俊春の顔色は、控えめにいっても悪すぎる。
「全員殺る?」
つづけられた問いは、植髮 風險 かれらしくないと思った。
が、そこには口封じの意味がこめられている。
土方歳三とわからずに攻撃してきているのだとしても、万が一ということがある。
それ以前に、たとえいま蹴散らすなり追い払うなりしても、ここに将官がいるという情報を持って敵軍に投降してしまうだろう。
逡巡した。
物理的には、俊春ならたとえ重傷を負っていても全員を瞬時に殺れる。
心情的には、させたくない。そもそも
「二人とも、かようなを奪いたくはない。
「俊春、狩猟小屋に縄はあるか?」
「鍛錬用の鉄鎖ならあるけど」
「全員を捕まえられ……」
「きかれるまでもないね。『It’s a piece of cake.』ってやつだよ」
おれが問うまでに、かれは即答した。
ちなみに、『It’s a piece of cake』というのは、簡単だとか朝飯前という意味である。
「体、大丈夫か……」
「うん、大丈夫。じゃあ、ひと暴れしてくる。きみは狩猟小屋にいって、鉄鎖の準備をして」
「わかった」
了承するまでに、かれの姿が消えた。
と認識するまでに、銃声のかわりに襲撃者たちの悲鳴があがりはじめた。
「主計」
になっている。
「兼定のお蔭で、いち早く連中の存在を知り、応戦できた」
副長の説明に、一つうなずく。
相棒には、感謝の眼差しを送っておいた。
相棒はいつもの塩対応ではなく、ちゃんとそのを受け止めてくれた。
「味方の脱走兵です。副長、あなたとはわかってはいません。ですが、将官がいることには気がついています。その情報を手土産に敵に駆け込むかもしれません」
説明しながら、狩猟小屋に入ってみた。
すると、それが目に入った。
ちょっ……。
様々な長さの鉄鎖が、狩猟小屋の土間部分の大半を占拠している。
俊冬と俊春よ。おまえたちは、いったいどんな鍛錬をやっているんだ?
呆れ半分、畏怖半分。そんな思いをしつつ、みんなに手伝ってもらって鉄鎖を狩猟小屋から運びだした。
その作業がおわるまでには、俊春は襲撃者二十七、八名全員を気絶させていた。
どんなコンディションでも、確実に任務をこなすかれはマジですごい。
子どものときにかれらにはじめて会った際、親父はかれらのことを『ダークヒーロー』みたいなものだと評した。
実際のところ、かれらはそうなんだろう。
だが、おれにとってはカッコいい『スーパーヒーロー』である。
市村や田村も加わり、全員で襲撃者たち一人一人を鉄鎖でぐるぐる巻きにした上で木にくくりつけた。
これでぜったい、襲撃者たちは身動きがとれない。
いつ発見されるか、そもそも発見されるかどうかは、かれらの運しだいである。
申し訳ないが、これ以降のかれらの命運は「神のみぞ知る」、である。
「弁天台場のほうは、史実通りもう間もなく投降します。あぁ、そうそう。副長、みんなに副長の戦死のことを伝えました。みんな、とりあえずは副長の死を悲しんでいるふりをしていました」
「この野郎っ!」
場を和ませようとジョークをいっただけなのに、頭を殴られてしまった。
みんなが笑いはじめた。
よかった。
みんなに笑顔がもどっている。
が、俊春の笑みはかたい。
「副長、これを」
俊春は小屋の片隅にいくと、壊れてボロボロになっている棚をどかせ、なにやら取りだして戻ってきた。
差しだされたのは、三つの風呂敷包みである。
迂回して狩猟小屋に駆けつけると、相棒が駆けよってきた。副長たちもホッとした